「これで最後。書かずにいられなかった」。作家の佐藤愛子さん(95)が新刊『冥界からの電話』(新潮社)を出した。エッセー『九十歳。何がめでたい』でブレーク真っ最中に書き進めていたノンフィクションだ。
2016年春ごろから書き始め、今年2月から「小説新潮」で連載した。佐藤さんが友人の医師から聞いた、死者から電話がかかってくるという不思議な体験談。高校生の少女が「先生、わたし、死んだんです」と電話をかけてくる。電話はたびたびあるが、彼女の正体はわからない。誰かが偽っているのか、混乱や錯誤をしているのか、明かされることはない。
「こんな突拍子もない話には納得できないという人もいるし、何か意味があると思う人もいるでしょう。顚末(てんまつ)を書いて読者に投げ出しました」。一気に読ませる文と巧みな構成は小説のよう。「自分でも作りものみたいにうまくできちゃったと思うけど、実際にそうなんだから仕方がない」
「死んだらどうなるのか」を考える中で「怨(うら)みつらみ、執着、物欲などは生きているうちに浄化しておいた方がいい」という思いに至る。「楽しい老後を送るには、という特集を婦人雑誌でやるじゃないですか。楽しい老後なんて考えているよりもしっかりと生ききることですよ」
あとがきに「書いても書いても、書けば書くほどわからない」と記した。「我々はよく、あの人はこうだと簡単に言うけれど、それはその人の一部分であって、一人の人間をすべてわかるなんてはずがない。自分自身もそう。そういう点は小説もノンフィクションも同じですね」(中村真理子)=朝日新聞2018年12月19日掲載
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